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Wednesday, August 18, 2004

高裁判決に対する反論要旨

ストック・オプション税務訴訟に関して、東京高裁においては納税者敗訴判決が続いている。その判決内容に納得がいかないので、ここでは、2点に絞って、高裁判決に対する疑問ないし反論を簡単に示したい。

1 課税庁の取り扱いの統一

ストック・オプション税務訴訟を提起している納税者の多くが課税処分に不満を持っているのは、納税者の課税に対する予測可能性が全く無視された点である。
過去十数年にわたって、ストック・オプションの行使益に関する課税は、一時所得であった。したがって、納税者はストック・オプションの行使益の課税は一時所得であると予測していた。
その予測を裏切らないためには、少なくとも、課税庁は、今後は給与所得で課税するという予告をすべきは当然である。それが納税者の予測可能性の尊重を要求する租税法律主義の要求である。
ところが、課税庁は何の予告もなく、ある日突然、ストック・オプションの行使益の課税を一時所得から給与所得に変更すると言い出した。しかも、過去に遡って、給与所得に変更するというのである。このような課税庁の態度に納税者が怒りを発するのは当然である。この点は、高裁判決でも納税者が怒りを抱いたことに対しては、理解を示している。
この予測可能性を無視した課税庁のやり方の違法性に関してはここでは述べない。ここでは、高裁判決における課税庁の見解の変更に関する判断を取り上げたい。課税庁がストック・オプションの行使益の課税を一時所得から給与所得に変更したこと自体及びその時期について、高裁判決は、次のように事実認定している。

 1)「平成10年ころ」に給与所得として課税することに
 2)「課税庁の取り扱いが統一された」

この事実認定が正しいといえるには、次のような点が明確にならなければならない。

 [1] 課税庁の誰が、どういう手続きで、給与所得という解釈変更をしたのか
 [2] その解釈変更の時期はいつか
 [3] 課税の公平のために、全国の課税職員の給与所得に変更したことを知らせたのか、知らせたとしたら、その知らせた文書およびその文書の日付はいつか
 [4] 納税者の予測可能性を保障するために、課税庁の解釈の変更を国民に知らせたのか
 [5] 納税者に解釈変更を知らせた文書とその時期はいつか
 [6] その解釈変更の時期における責任閣僚は誰で、解釈変更を承認したのか、その承認を明らかにする文書はあるのか

上記[1]から[6]を支える課税庁主張も不十分であり、まして、それらを支える証拠はないに等しい。それにもかかわらず、高裁判決では、上記のように、平成10年ころに、給与所得に解釈変更する取り扱いの統一があったという事実認定をしている。これで、高裁判決は、証拠に基づいて判断しているというのであろうか。信じがたいことである。
裁判所が証拠に基づかないで、課税の公平や納税者の予測可能性を保障すべき行政解釈の変更の統一的取り扱い及びその解釈の変更を国民にも知らせたことという重大な事実に関して、十分な証拠の吟味があったとは考えにくい判断をしている疑いがある。
高裁判決は、本当に、司法としての役割である行政チェックをしているのであろうか。国民である納税者よりも、行政を守ることが司法の役割と認識しているとしか考えられない事実認定である。

2 ストック・オプションの行使益は親会社から受け取ったものか

高裁判決では、ストック・オプションの行使益は、それを付与した親会社の損失によって、付与を受けたものに提供されたものと判断している。なぜそういえるのかの点に関しては、納得がいく説明がないに等しい。以下に疑問点を明らかにしたい。

 1) 親会社に損失があるというのであれば、それは会計上の費用もしくは課税上の損金になるはずである。しかし、親会社はストック・オプションの行使益に相当する損失を計上できない。この点は、どう説明するのか。

 2) ストック・オプションが資金の十分でないベンチャー企業で活用されるのはなぜか。それは、ストック・オプションを付与するのに、会社に何の損失もなく、資金の手当てが必要ないからである。ここに、ストック・オプションの経営的・経済的側面での本質がある。
ストック・オプションの付与には親会社の損失があると考えるのは、ストック・オプションの前記本質と異なるのではないのか。

 3) ストック・オプションを付与する会社の経営者は、通常、ストック・オプションを付与すること自体を認識しているに過ぎない。資本市場の形成する株価が決定的影響を持つストック・オプションの行使益を、付与会社の経営者が与えることまで認識しているとは言いがたいからである。
したがって、付与会社の経営者が与える認識のないストック・オプションの行使益を付与会社が与えたとはいえないことになる。

 4) ストック・オプションの行使益に関しては、株式市場が決定的役割を果たす。行使益は、ストック・オプションの付与を受けた者がいつそれを行使するか及びその行使時の「株価」自体によって確定するものだからである。その意味では、ストック・オプションの行使益は、付与会社から受け取るというよりも、株式市場から受け取ると考えるのが合理的である。

弁護士 鳥飼 重和

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